渋い珈琲

 

私が大学に入ったころ、個人情報とかは本当にゆるくて

同級生で名前や生年月日、出身高校や実家、下宿の住所や電話番号(固定電話の)を書いた名簿は慣習的に作られ、配布されていました。

大学受験のプレッシャーから解放されたためか、B5サイズのその用紙に、ちょっとしたアピールが書かれたりしていて、配布された名簿を読みながら、クスッとしたり、そういう人なんやと思ったりしていました。

 

その最初の方に、大阪の公立高校出身で、ちょっと、僕より2つほど年上の人が載っていました。あぁ、あの高校のと思いながら自由記載欄を見ると、ちょっと特徴のある字で「3年の刑期を終えて、シュッショしてきました。多少年は食っていますが、仲良くしてやってください。」と書いてありました。

 

最初は、どういうことかわからなかったのですが、大学に入るのに、3年ばかり余計に勉強したということは、あとでわかりました。大学では野球部に入り、がんばって活動していることは、傍目には知っていましたが、僕は後半のクラス、彼は前半のクラスということであまりふれあいはありませんでした。

 

卒業のころ、僕は第1外科に、彼は腫瘍外科に進むことになりました。1年の研修を終えて、大阪府立病院に出張すると、彼も出張してきて一緒になりました。僕は消化器一般外科、彼は救急部で修練をつみながら、ともに臨床研修部で過ごす2年間でした。時々、病棟や廊下ですれちがったり、麻酔科ローテートの時には、お互いの手術についたりしていました。

 

その後は、直接一緒に働く時期は無かったのですが、私のバイト先の看護師さんが手術を受けられることになって

その担当が偶然彼だと言うことがわかり、数年ぶりに電話で話をしたことがありました。

電話口の彼は、昔の優しく、楽しい雰囲気はそのままで、信頼できる外科医という感じがあふれてきて

頼もしく思いました。

 

そんな彼が、逝きました。

以前から、そういう状態だとは同級生から聞いていましたが、いよいよその日が来てしまいました。

 

昨日、お別れに行ってきました。祭壇の写真は、若々しく、昔のままでした。

 同級生にお焼香するなんて、複雑でした。

まだ、50前。早い。早すぎる。

お母様とも少し話をしました。

KCをきちんと身につけた彼は、僕の知っている面影そのままで眠っているようでした。

 

お別れを言って出るときに、「健司の好きだった珈琲です。味わってあげてください。」と渡されました。

今日、折角なので、いただきました。渋い珈琲でした。

 

赤澤くん。またね。安らかにお休みください。

 

 

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コメント: 1
  • #1

    ながさと (土曜日, 17 9月 2016 10:16)

    辛いですね。
    一期一会、そして会者定離。

    お悔やみ申し上げます。

    合掌